Sony Startup Acceleration Program(以下SSAP)では、事業創出を阻害する50個の社会課題を「課題マップ50」として整理。SSAPではアクセラレーターやソリューションパートナーとともに、事業開発担当者の課題解決を支援しています。
今回は、SSAPのアクセラレーターとソリューションパートナーが伴走支援を行い、2024年に製品化された清水建設株式会社「Hydro Q-BiC Lite」について、清水建設の北川 遼さん、SSAPのソリューションパートナーである佐藤 弘幸さん、SSAPのアクセラレーター 小谷 克秀にそれぞれの視点から事業開発の歩みを振り返っていただきました。
清水建設株式会社
技術研究所 カーボンニュートラル技術センター 再生可能エネルギーグループ
兼 NOVARE イノベーションセンター H2 Acceleration Group
北川 遼(きたがわ・はるか)さん
SSAPソリューションパートナー
ランスコンサルティング株式会社 代表取締役
スペイン国立水素・燃料電池技術研究所で事業アドバイザーを務める等、
水素技術を活用した事業開発に精通。
佐藤 弘幸(さとう・ひろゆき)さん
SSAPアクセラレーター
ソニーグループ(株)Startup Acceleration部門
COSIA事業部 Team2 統括課長
小谷 克秀(こたに・かつひで)
――まずは、今回事業化された「Hydro Q-BiC Lite」について教えて下さい。
北川さん:今回清水建設で事業化した「Hydro Q-BiC Lite」は再生可能エネルギーのさらなる利用拡大とカーボンニュートラルの実現に向けて、水素サプライチェーンの「つくる」から「つかう」までの設備一式をコンテナ内に収納した省スペース型の水素エネルギー利用システムです。元々、当社では建物付帯型水素エネルギー利用システム「Hydro Q-BiC」を開発しており、その省スペース型の製品として開発したのが、「Hydro Q-BiC Lite」になります。そしてこの「Hydro Q-BiC Lite」の事業開発を私が担当することとなったのですが、元々技術開発を行う研究者であったため、事業開発に関する経験もノウハウもありませんでした。
――事業開発を推進するにあたりどのような課題がありましたか?
北川さん:今回の「Hydro Q-BiC Lite」の事業推進メンバーは、技術研究所や設備設計から技術者寄りのメンバーが集まっており、プロダクトアウトの考え方がベースとなっていました。新規事業として推進するには社内のメンバーだけで事業開発を完結させるのではなく、客観的な外部の視点が必要だと考えました。基本的な技術や製品の骨格が出来上がる中で、「それって売れるの?」という問いに対して、具体的な事業戦略を練れないため、自信を持って答えることができなかったんです。
――コンサルティング・ファームなど、事業開発を支援してくれる会社は多くあると思うのですが、SSAPに支援を依頼した決め手は何ですか?
北川さん:伴走支援型でサポートをしてくださるからです。新規事業開発は、本来は私たちがやるべきものだと考えていますし、外部の方にすべてお任せするのではなく、当社や自分たちのしっかりと血が通ったものにしたいという思いもありました。そのため、あくまで自分たち主体で走りながらも、不足している知見やノウハウを提供しながら伴走していただけるSSAPさんにお願いすることにしました。
――実際には、どのような伴走支援が行われたのでしょうか?
北川さん:事業戦略や長期のロードマップの立案をサポートしていただきました。具体的には、週1回の定期的なミーティングを行いながら、SSAPさんに事業戦略を練るために必要な課題を出してもらい、その宿題を翌週にクリアしていく形で事業の全体像を形作っていきました。
小谷:アイデアの発案から事業創出までのフェーズを4つのステージに分解した「ステージゲートシステム」など、ノウハウの提供が基本となります。いわゆるアイディエーションから事業仮説の構築・検証を行っていくのですが、各ステージの中でもかなり細かいマイルストーンが設定されています。
北川さん:「次までにこれを一緒に考えていきましょう」という点がすごく明確でした。具体的には、当社の保有している「Hydro Q-BiC」と、この製品のベースとなる水素吸蔵合金の特許を活用して、お客様の「水素をエネルギーとして利用したい」というニーズにいかに応えていくかを考えていきました。
小谷:そうなると、今度は水素エネルギーに関する業界の動向や法律などの知見が必要となってくるんです。しかし、SSAPには水素エネルギーの専門家はいません。そのため、水素エネルギーに精通しており、新規事業の開発にも携わっていたSSAPのソリューションパートナーの佐藤さんにお声かけをしました。
北川さん:佐藤さんには、水素エネルギーの今後の社会動向や事業開発に関して、私たちだけでは調査しきれず不透明な点について情報共有や支援をしていただき、事業戦略とロードマップの策定が一気に進みました。また、「Hydro Q-BiC Lite」の事業開発のキーとなったのは、補助金の確保や活用でしたが、その点も完璧にアドバイスしてくださり、本当に心強かったです。
佐藤さん:補助金を出してくださる方々の狙いと検討や評価の観点、例えば、社会に本当に貢献できるのか、長期的にどのように事業として自立させていくのかといった収益性等、複数の関係者間の視点を踏まえてサポートさせていただきましたが、そう言っていただけると私としても非常にありがいです。
――SSAPがソリューションパートナーと共に支援される背景を教えて下さい。
小谷:SSAPで支援させていただく業界や分野は多岐にわたることから、お客様の課題によっては専門領域における深い知識や経験が求められることもあります。そうした際に、佐藤さんのような専門家の方にパートナーとして参画していただいています。新規事業開発と各分野の専門家という、それぞれのプロフェッショナルがタッグを組むことで、精度の高い伴走支援を提供していきたいと考えています。
――佐藤さんと小谷さんが、伴走支援をする上で大切にしていることはありますか?
佐藤さん:自分ゴト化ですね。「仕事だから」という範疇を超えて、本気で考え、全力でそして率直にアイデアや意見を出し合わなければ、新規事業を開発することなんてできません。そのためには、北川さんたちの本音や想いを汲み取る必要があると考えています。
北川さん:佐藤さんやSSAPの皆さんがフランクな感じでミーティングに参加されているのは、そういった理由があったんですね。
小谷:佐藤さんがお話しされた通り、私も自分ゴト化は伴走支援の本質だと思っています。やっぱり、自分ゴト化して、同じ熱量を持って取り組むことで初めて伴走ができるんです。SSAPの新規事業開発のノウハウとプログラム、そしてアクセラレーターやパートナーの皆さんの想いが掛け合わさることで、質の高い伴走支援を提供できると考えています。
佐藤さん:本音で話すことで、北川さんたちにとっては耳が痛いことも言ってしまったかなとも思うのですが……
北川さん:いえ、すごく的確なアドバイスをいち早くいただけたと思っています。お客様のもとにヒアリングに行くと、佐藤さんと同様の意見をいただくことがたくさんあり、事前に対策を練っておくことでスピーディに課題を解決できました。先日開催された「SusHi Tech Tokyo 2024」で、「Hydro Q-BiC Lite」の事業開発をテーマに佐藤さんと登壇させていただきましたが、毎週本音でミーティングができていたからこそ、フリートークセッションができたと思っています。
――今回の伴走支援を通じて、事業開発の成果以外で、北川さんご自身が得られたものはありましたか?
北川さん:伴走支援を受けながらも、自分たちで考え進めたことで、事業開発のノウハウが身に付いたと感じています。「Hydro Q-BiC Lite」の今後の事業展開はもちろん、新たなテーマで事業開発を行う際も、今回の伴走支援で得た知見を活かしていきたいです。
小谷:そう言っていただけると、本当に嬉しいですね。「あらゆる人に起業の機会を。」という言葉がSSAPのキャッチコピーとなっていますが、伴走支援させていただいた方々が自走して新規事業を開発していくことが、私たちの願いでもあります。
※本記事の内容は2024年7月時点のものです。