Sony Startup Acceleration Program (SSAP)によるオリジナル連載「大企業×新規事業 -Inside Stories-」は、SSAPの担当者が大企業内のオープンイノベーション推進組織のトップにインタビューする企画です。
今回インタビューしたのは、株式会社資生堂(以下、資生堂)。資生堂では研究開発拠点であるみなとみらい地区の資生堂グローバルイノベーションセンター(以下、GIC)にて、オープンイノベーションプログラム「fibona」に取り組んでいます。 fibonaは資生堂の研究員と外部のさまざまな人と知の融合から新たなイノベーションを目指しています。
株式会社資生堂 fibona プロジェクトリーダー中西 裕子(なかにし・ゆうこ)さんが語る、研究所発でfibonaが立ち上がったワケ、クラウドファンディングで話題を呼んだ意外なプロダクト、資生堂が注目する新たな領域とは?資生堂のオープンイノベーション推進組織のリアルに迫ります。
組織のリーダーを支える意外なコミュニティ
――組織をマネジメントする上で大切にしている考え方は?
大きく2つあります。1つ目は基本的に、fibonaのプロジェクトメンバーの自発性を大切にしています。新しい取り組みは自由度が高く新たな挑戦の文脈が大きいからこそ、メンバーの「これをやりたいんだ」という意思を尊重するのです。一方で提案に対して野放しに「じゃあやっていいよ」とは言わず、各々がアイデアやビジョンを周囲に伝わるように説明しているかどうかも注視しています。
2つ目は、R&D全体の戦略であるトップダウンの方向性と、fibona発のボトムアップのバランス感です。私はfibonaのリーダーであると同時に、R&D戦略部でマネジメントにも携わっています。fibonaの今後の戦略を考える上で、資生堂のR&D全体としての戦略は注意深く見ていますし、互いにどう作用しあえるかを常に考えています。fibonaが既存のR&Dという組織だけでは補いきれない部分で存在感を放てるように、日々バランスをとっています。
あと付け加えるとすると、さまざまな企業の新規事業界隈の方々と定期的にコミュニケーションを取るようにしています。新規事業やオープンイノベーションを推進する上で不安が生じたり、決断に迷ったりすることもあります。そういった時に、他社で同じ境遇で頑張っている方々の話を聞いて勇気をもらうこともありますし、fibonaのヒントをもらうこともあります。
――なるほど。企業内新規事業に携わる方々との繋がりがあるのですね。どういったきっかけで出来たコミュニティなのですか?
私は過去に2回、資生堂が他社と共同で作ったプロダクトを展示するために「SXSW(サウス バイ サウスウエスト)」(※)に参加したことがあります。当時出展したのは、ユーザーの気分やストレスレベルなどに応じて香りがブレンドされるアロマディフューザーや、オンラインWeb会議ツールですっぴんでもメイクをしたように見えるサービスなど。これらのプロダクトを開発する過程はもちろん、SXSWの現地で企業内新規事業に取り組む多くの方々に出会ったご縁が今も続いています。
――SXSWがきっかけで繋がりが生まれたとのこと、やはり化粧品業界の繋がりが多いのでしょうか。
業界問わず、それこそソニーの方ともやり取りしたことがあって、数年前にSSAPが主催していたアイデア発想を促すワークショップに参加したこともあります!そういった場で得た知識を持ち帰って、資生堂ではどう適用できるか?とヒントをもらいました。
既存事業だと仕事が型になっていて、前任者に聞けば王道の業務の進め方は把握できます。しかし、新規事業に代表される取り組みはそれが出来ない。だからこそ、横で同じく新規事業や私と似たようなことに携わっている方々のやり方を見て、話を聞いて、学び、励まし合うことが有効だと思うのです。
今、求められる”美しさ”の定義とは?
――中西さんは今後どのような研究開発、新規事業に挑戦したいですか?
具体的な例というよりは挑戦したい分野の話になりますが、「生きやすい”美しさ”」を定義したいです。”美しさ”の新たな定義に繋がる研究開発やイノベーションを推進したいと思っています。
最近は至る所で「30歳を過ぎたらエイジングケアが必要」などという声を聞きます。しかし人生100年時代と言われているこの時代に、個人的には、そんなに早い段階でエイジングケアなんて言ってしまって良いのだろうか?と、違和感があるんです。人々の“美しさ”の定義や意識を見直し、もっと選択肢を増やしたいです。絵画や華道、茶道などには流派があり、それぞれ主義や流儀が違います。これらのように、“美しさ”にも流派のような、さまざまな考え方や定義が広がれば、生きやすい人が増えると考えています。
例えば最近ではメタバースという空間が生まれ、今後はアバターで人と人が交流するシーンも増えるはずです。そういった領域での“美しさ”は何になるのか?どう定義すべきなのか?想像するだけで面白いですし、fibonaや資生堂が介在する可能性を秘めているのではないかと思います。
――企業で新規事業に関わる方々に向けて「これだけは伝えたい!」ということはありますか?
fibonaもそうですが、新規事業やオープンイノベーションには、これと言った答えがある世界ではないと思っています。
企業内で新規事業を推進されている方々、それぞれの環境でやりたいことが成し遂げられるように、最適な解が見つかるように応援しています。私自身もそれを見つけたいと思って日々活動しています。ぜひ共に頑張りましょう!
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株式会社資生堂 fibona プロジェクトリーダー中西 裕子さんに迫った今回の「大企業×新規事業 -Inside Stories-」。
インタビューのハイライトをまとめます。
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※本記事の内容は2023年6月時点のものです。