2023.03.14
ライオンの強み×社会課題で創出する、次なる新習慣

#02 BtoCのマーケティング・デザイン戦略、施策を絞り込むための鍵は?

2022年11月に一般販売が開始された、ライオン株式会社(以下、ライオン)が手掛けるお口のフィットネスサービス「ORAL FIT(オーラルフィット)」。

Sony Startup Acceleration Program(SSAP)はORAL FITの開発にあたり、事業化のための体系的なノウハウや知見をベースに、マーケティングやコミュニケーションデザインなどの支援を行いました。ライオンが50~60代をコアターゲットにした新サービスを開発したワケは?一般販売までの知られざる裏話とは?ライオンによる新たな事業創出ストーリーをご紹介します。

ライオン株式会社 経営サポート部 春田 敏伸(はるた・としのぶ)さん
ライオン株式会社 研究開発本部  オーラルケア研究所   杉本 真弓(すぎもと・まゆみ)さん
SSAPマーケティング担当 アクセラレーター 荒木 瑠里(あらき・るり)
SSAPデザイン担当 アクセラレーター 清水 稔(しみず・みのる)

 

「これはいける!」自信の反面、マーケティング施策の課題があった

――春田さんは前回のインタビューで ORAL FITのプロジェクトマネジメントとして事業立ち上げを先導されていると伺いました。杉本さんのプロジェクトでの役割とこれまでのキャリアを教えてください!

杉本さん:ライオンのオーラルケア研究所にて、製品・サービス開発を担当しています。キャリアとしてはライオンに入社後、皮膚科学に関する基礎研究に携わった後に制汗剤「Ban」の開発を担当し、現在はオーラルケアの新たな価値を創造すべく、広い視野を持って研究開発に取り組んでいます。

ORAL FITのプロジェクトでは、コンテンツ開発リーダーとして、口腔機能チェックやトレーニングメニューなどの開発を進めてきました。実はORAL FITは、さまざまなバックグラウンドの方々がプロジェクトメンバーに入っており、ライオンの研究開発部門のメンバーのほか、技術監修面では、日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニック院長の菊谷教授にもサポートいただいています。

インタビューに答える杉本さんの写真
ライオン株式会社 研究開発本部 オーラルケア研究所 杉本 真弓さん

――荒木さんと清水さんは、ORAL FITの事業化にあたって何を担当しましたか?

荒木:マーケティング面を私が担当し、デザイン面を清水が担当しました。

ORAL FITは2022年11月に一般販売を開始しており、それまでの数か月間はマーケティング戦略の策定をサポートしました。一般販売開始後は、より多くの方々にORAL FITを認知し購入していただくべく、オンライン・オフライン両面からのマーケティング施策を実行、PDCAを回しています。

2022年3月から5月の期間が全体整理、5月から9月の期間がマーケティング・制作支援、9月から2023年3月の期間がマーケティングアドバイザリー支援、それぞれの期間中に支援が入る
支援の全体スケジュール

清水:デザイン面では、マーケティング戦略に沿ってORAL FITの公式サイトやコンセプトムービーの制作、広告クリエイティブやリーフレットも作成しました。コンセプトムービーは以下からご覧いただけます。ムービーにはターゲット層となる年代のモデルさんに登場いただき、お口に関する悩みに共感してもらえる設計にしました。同時にお口のフィットネスという新しい習慣としていただきたいサービスであることをコミュニケーションデザインで訴求しています。

――SSAPの支援を導入する前、マーケティングやデザイン面をどのように進めていましたか?

春田さん:SSAPに支援いただく前は、ビジネスアイデアの検討や想定顧客へのインタビュー、MVPの検証を数回経て、β版アプリでの顧客検証や公式サイトの元となるページの制作まで進めていました。

これらの検証ではポジティブな結果が出て、プロジェクトメンバーは「これはいける!」と自信が湧いてきた時期でした。一方で、コアターゲットである50~60代に対する有効なマーケティング施策を絞り込めていないことを課題に感じていました。

杉本さん:一般販売に向けた施策の1つとして、動画コンテンツも既に制作していました。プロモーション動画ではお口周りの筋肉を、5つの「オーラルマッスル」としてビジュアル化し体系的にチェックできるよう工夫したり、アプリ内で配信するトレーニング動画についてもトレーナーのリエ先生というキャラクターを登場させ、楽しく続けていただけるような仕掛けを考えたりしました。

インタビューに答える春田さんの写真
ライオン株式会社 経営サポート部 春田 敏伸さん

どうやって消費者に、ORAL FITを自分事にしてもらうか?

――公式サイトの元となるページや動画コンテンツも一部、既に制作されていたのですね!荒木さんと清水さんは具体的にどのような支援を行いましたか?

荒木:春田さんや杉本さんがおっしゃった通り、SSAPに支援を依頼いただいた段階で、既にプロモーションアイテムがある程度形になっている状態でした。しかしプロジェクトの皆さんは主に一般販売に向けたマーケティング施策の面で課題を感じており、SSAPとしてはまずは「その課題が何なのか」を紐解き、ライオンさんのリクエストを反映しつつ、デザイン面でのコミュニケーションを設計することから始めました。

清水:ORAL FITは50~60代の方々をコアターゲットとしたサービスです。プロジェクトではターゲット層に「ORAL FITがお口のフィットネスであること」と「新しい習慣にしていただきたいサービスであること」を訴求させたいというリクエストをお持ちでした。ターゲット層に注目してもらい関心を示していただけるキャッチーなデザイン表現の追求と、内容をよりよくご理解いただくにはどうすればよいかが、デザインテーマとなりました。

ORAL FITが自分に必要なものである、つまりORAL FITが「自分事」であると受け取っていただけるようなコミュニケーションデザインにより、ターゲット層に対してより強く内容を訴求できると考えました。

インタビューに答える清水の写真
SSAPアクセラレーター 清水 稔

――「いかにORAL FITを自分事にしてもらうか」が鍵だったとのこと、どういったアプローチをとりましたか?

清水:ORAL FITの公式サイトのデザインは、冒頭にお口のフィットネスであるというキャッチーなビジュアルを配置することで注目いただき、このサービスが自分に必要であると認知いただく「自分事」への置き換えへのコミュニケーションを促しました。次にORAL FITがどのようにお口に関する悩みを解決してくれるのか、サービスの全体像をご理解いただくための動画を配置し、次により詳しい内容説明を入れました。ターゲット層に納得いただき、商品の注文に至るコミュニケーションプロセスをデザインしました。

公式サイトでは、共感をしてもらうための細かいストーリーを構築し、以下の構成で制作しました。

ORAL FIT公式サイトのLP要素やコピー、ポスターのデザインなどが説明されている画像
ORAL FIT公式サイトの構成考察のためのデザインスタディー

荒木:ORAL FITは、アプリ上でトレーニングをしていただくサービスで、アプリのダウンロードや決済が必要です。デジタル上でのユーザー行動が重要になってくるので、オンライン広告をメインに施策を行いました。ターゲット層やORAL FITの特性を考慮し、相性の良い媒体をリサーチし、プロジェクトメンバーの方々と選定しました。

オンライン広告だけでなく、「調剤薬局で薬剤師の方からORAL FITのリーフレットをご説明していただき、配布してもらう」という施策もご提案しました。これは、ターゲット層の接点としてあがった調剤薬局を活用して、信頼している薬剤師の方からのリコメンドによる効果を狙ったものです。広告のクリエイティブは清水にもデザイン面で入ってもらい、綿密なコミュニケーション設計の上で施策を実行しています。

インタビューに答える荒木の写真
SSAPアクセラレーター 荒木 瑠里

最期まで“自分の口で美味しく食事できる”世の中に

――マーケティング・デザイン面の支援で役立った点はございますか?

杉本さん: SSAPの方々にサポートいただきつつ制作したORAL FITの公式サイトやキービジュアル、コンセプトムービーは、世界観をしっかりと訴求できるものになりました。

公式サイトは既にある程度形になっていたページを練り直していただく依頼でしたが、ORAL FITの効果の説明など、一目でわかりやすいものになったと思っています。コンセプトムービーにご出演いただくモデルさんを選ぶオーディションには私も参加させていただき、ORAL FITのイメージに合う方を見つけることができました。

春田さん: ペルソナやカスタマージャーニーマップの整理によってマーケティング戦略を検討する上での土台が出来、施策のアイデア出しや絞り込みの議論をスムーズに行えました。打ち合わせの際にライオンのメンバーがその場でまとめたグラフィックレコーディングも役立ちました。

施策案やアイデア出しなどが、手描きのイラストや文字で書かれている
グラフィックレコーディングの一部(議論を見える化し、プロジェクト内での共通理解を深める目的で、ライオン内ではミーティングにてグラフィックを用いた議事録作成を行っている)

――それぞれの視点で、ORAL FITの展開にかける想いを教えてください。

杉本さん:「歯があっても、スムーズに食事できない高齢者が増えている」、私はこの事実を目の当たりにした時に、お口機能を維持することの重要性を感じました。また大袈裟かもしれないですが「多くの方が最期まで“自分の口で美味しく食事できる”世の中にしたい」と思いました。ORAL FITをきっかけに、お口機能に興味を持ってもらい、毎日少しずつケアする習慣を作ってもらえたらいいなと思っています。監修をしていただいた菊谷教授も含め、プロジェクトメンバー全員がこのようなORAL FITのビジョンに強く共感しています。

今後もORAL FITを使っていただいた方の声を大切にし、サービスの改良に繋げていくと共に、お口機能を維持・改善できる新しい製品やサービスを開発して、お客様に届けていきたいと思っています。

清水:私もORAL FITのサービスを体験しました。ORAL FITは楽しくトレーニング出来るプログラムです。トレーニングを行った後から、滑舌が良くなったと言われることがあります。お口のフィットネスという新しい新習慣がORAL FIT通じて当たり前になると願っております。

荒木:私はちょうど両親がORAL FITのターゲット層となる年代です。以前、親が人前でスピーチをする際に「最近滑舌が悪くなって、うまく喋れないかもしれない」と不安をこぼしていました。その時からお口周りの健康維持には課題を感じていて、ORAL FITを知った時には真っ先に両親の顔が頭に浮かびました。

自分自身も将来の健康のために気を付けていきたい領域ですし、いずれORAL FITを通じてお口のフィットネスが当たり前の習慣になればと願っています。

春田さん:ORAL FITはまだスタートを切ったばかりです。まずはお口の機能に衰えを感じはじめた50~60代の方々をコアターゲットに展開しますが、将来はこれだけにとどまらない可能性を感じています。若い世代や介護が必要になっている方などにも広く必要とされるサービスとなるように、“お口のフィットネス”が日々の習慣として定着していくために活動していきます。

春田さんと杉本さんが笑顔で並んでいる写真
左:ライオン株式会社 経営サポート部 春田 敏伸さん、右:研究開発本部 オーラルケア研究所 杉本 真弓さん

連載「ライオンの強み×社会課題で創出する、次なる新習慣」では、今後もライオンが挑む新規事業のストーリーをご紹介してまいりますので、お楽しみに!

※本記事の内容は2023年3月時点のものです。

 

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Sony Startup Acceleration Program(SSAP)は、「あらゆる人に起業の機会を。」をコンセプトに、2014年に発足したスタートアップの創出と事業運営を支援するソニーのプログラム。ソニー社内で新規事業プログラムを立ち上げ、ゼロから新規事業を創出した経験とノウハウを活かし、2018年から社外にもサービス提供を開始。経験豊富で幅広いスキルとノウハウをもったアクセラレーターの伴走により680件以上の支援を24業種の企業へ提供。大企業ならではの事情に精通。(※ 2024年4月末時点)

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