「新規事業のキーワードは“昔からある需要に、新しい技術でこたえる”こと」
Sony Startup Acceleration Program(“SSAP”)のアクセラレーターは、新規事業の立ち上げを支援し加速するマインドセットとスキルを兼ね備えたプロフェッショナル集団です。それぞれが実際の事業経験を通じて学んだ豊富で専門的な知識を持ち、様々な分野で新規案件の事業化や収益化をサポートしています。
本連載では、SSAPに所属する多数のアクセラレーターの中から各回1名ずつをピックアップしご紹介いたします。
小林 敬幸 Takayuki Kobayashi
――担当支援領域
エグゼクティブプロデューサー
・Seed Stageでの新規アイデアの事業検証から事業化、事業運営までを事業企画の観点から支援。新規事業創出経験者としてエグゼクティブサービスも提供。
――SSAPでの担当事例
国連プロジェクトサービス機関(UNOPS)、トランクソリューション株式会社、エムスリー株式会社との協業、「Sony Creators Gate U24 CO-CHALLENGE 2020」案件審査等 他多数
アクセラレーターインタビュー
――これまでのキャリアを簡単に教えてください。
2016年ソニー入社前の30年間は、三井物産株式会社にて、様々な新規事業の育成を担当してきました。代表的な実績としては大きく3つあります。
1つ目は、1999年にオープンしたお台場パレットタウンの大観覧車の企画・開発です。当時は世界一高い大観覧車としてギネスブックにも登録されました。
2つ目は、現在の株式会社リクルートホールディングス(以下リクルート)への出資及び業務提携です。三井物産は2007年にリクルートに約270億円の出資を決め、その後2010年には米国の人材派遣会社の買収をサポートしました。2019年までにリクルート株から得た利益を膨大な額となりました。
3つ目は、ライフネット生命保険株式会社(以下ライフネット生命)への出資。2007年に、当時まだ従業員が数名だったライフネット企画会社に約15億円の出資を行いました。その後ライフネット生命の事業は大きく成長し、2012年には東京証券取引所マザーズ市場に上場しました。
またビジネスに関する本も執筆しており、著書には『自分の頭で判断する技術』(角川書店)、『ビジネスをつくる仕事』(講談社現代新書)、『ふしぎな総合商社』(講談社+α新書)などがあります。
――事業を支援するうえで大事にしていることは何ですか?
「社会への貢献」と「会社への利益」が最大限に実現できることを、いつも大事にしています。
例えば先ほどご紹介したお台場の大観覧車の事例は、1999年の東京のシンボルとなるエンタテインメントを創るという意味で、「社会への貢献」を果たしました。大観覧車がオープンした頃はお客様の行列が絶えないほどの人気で多大な「会社への利益」をもたらしました。
またリクルートへの出資も同じ原理です。当時のリクルートのビジネスモデルは、雑誌やオンラインに情報を集め、就職活動を行う人の為に提供するというものでした。リクルートが提供する情報によって多くの人がそれぞれに適した就職を実現できたら、それは「社会への貢献」です。そして何よりも、これまで個々の会社がバラバラに出していた情報を集約して世の中に提供するという発想は、当時はとても新しかったですし、面白いと感じました。当時の私はリクルートの事業がいずれ大きくなり「会社への利益」をもたらすことを確信しましたし、結果多くの利益をもたらしました。
ライフネット生命もそうです。2007年、ライフネット生命への出資を決めた当時は、生命保険というものは、保険会社の営業の方と直接会い、話を聞いた上で加入することが普通で、「オンラインで申し込みできる生命保険」というものは非常に珍しかったです。しかしオンラインで申し込みまでを完結せることで、ライフネット生命側は保険の営業担当者の人件費がかからずに済みますし、ユーザーはその分、安い保険料でお得にサービスを享受できるのです。そして何より、ユーザーにとってはこの上なく便利ですよね。これが「社会への貢献」であり、ライフネット生命はその後業界で急成長しました。それが「会社への利益」です。
「社会への貢献」と「会社への利益」は、両方のバランスが取りづらいときも、矛盾するときもあります。しかし、これらの両方を狙って事業を見極め、進めていくことが何より大切だと考えています。
また付け加えると、「昔からの需要に、新しい技術でこたえる」ということも一つのキーワードになります。例えばリクルートは、「自分の職に関する情報を得たい」という古来から変わらない需要に、オンラインの1つのページに情報を集約させるという当時の新しい技術で答えました。昔からある需要というのは普遍的なものなのですから、それに対して新しい形で答えられれば、ビジネスとしては飛躍的に伸びるのです。
――SSAPの活動を通して実現したいことはありますか?
できるだけ多くの、新しい新規事業を近くで見て、育てていきたいです。私にとって新規事業は仕事であり、趣味でもあります。
私は、SSAPは「21世紀の変化を実現しようとトライする」場所だと考えています。世の中的なトレンドは常に変容していきますが最近の変化のキーワードは、大きく次の4つがあると思います。「均一化→多様化」「大量→個別」「生産・モノ→情報サービス」「所有→利用」。またこれからの世の中に価値をもたらすのは「有限多数」のもの。例えば微生物や気候、AIなどもそれにあたります。
SSAPはまさにこのキーワードに沿った事業を生み出し、育成していますし、これからそれらの事業が芽を出し大きくなっていくのは非常に面白いですし楽しみにしています。
私は実際に自分自身が新規事業の中に入り、自ら手を動かしたりサポートしたりするのが好きです。実際に数々の新規事業を生み、育ててきた経験やそこから得た知識・ノウハウ・独自の目線があるので、そういった点で力になりたいと考えています。なりたくないのは、第三者的なアドバイスだけを行う評論家のような立ち位置。常に新規事業の中の人として、これから多くの事業を生み出し、育てていきたい、そう強く思います。
――オフの楽しみを教えてください。
本やブログから、政治・経済・国際関連の情報を仕入れるのが常日頃からの趣味です。
また国内外の旅行に行くのも好きです。国内ですと、越後妻有や瀬戸内の芸術祭に出かけたり、屋久島に行ったりしました。

海外もブラジル、アルゼンチン、メキシコ、インドネシア、タイ、韓国等に旅行しましたし、ヨーロッパは殆ど訪れましたね。遺産や国立公園を見て回るのが好きです。
――最後に一言お願いします。
「昔からある需要に、新しい技術でこたえよう!」と、新規事業を志す方々に伝えたいです。そうすれば自ずと、「社会への貢献」と「会社への利益」につながっていくはずです。
東京オリンピックの競技場を設計した隈研吾氏が建築で主張する、「人と人、人と物、人と自然をつなぐ思想と実践」を、ソニーで、多業界のすべてのメンバーが現実に行動しています。
あらゆる人に起業の機会を。
Sony Startup Acceleration Programはソニーが手がけるスタートアップの創出と事業運営を支援するプログラムです。2014年から6年間で、60件以上の事業化検証、16の事業を創出(2020年12月1日時点)。それらを通じて培った経験やノウハウを生かし、アイデア出しから事業運営、販売、アライアンス・事業拡大に至るまで総合的に支援する仕組みを整備し、スタートアップ支援サービスとしてみなさまにご提供しています。
バックナンバー
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Vol1Interview2019.09.09「会社の垣根を超えて、新しいことが生まれる社会を作りたい」
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Vol2Interview2019.09.26「新しい商品で溢れる楽しい世界を。」
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Vol3Interview2019.10.17「机の下に眠ったアイデアを、お客様の元に。」
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Vol4Interview2019.11.14「いろいろな人と接し、気づき、チャレンジを繰り返す」
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Vol5Interview2019.12.09「誰もがアイデアを形に、形をビジネスにできる世の中を作りたい」
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Vol6Interview2019.12.26「ソニーとスタートアップとの協業だからこそ実現可能なイノベーションを。」
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Vol7Interview2020.02.06「『あらゆる人に起業の機会を。』を実現、誰もが楽しく起業のノウハウを学べる環境を提供したい」
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Vol8Interview2020.04.03「海外と日本の“橋渡し役”として、国内外のスタートアップを支援していく 」
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Vol9Interview2020.04.30「新規事業のキーワードは“昔からある需要に、新しい技術でこたえる”こと」
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Vol10Interview2020.06.08「お客様の新規事業を成功させることで、より一層の信頼と安心を。」
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Vol11Interview2020.06.18「5年先も見えない面白い世の中!変化の波に乗ろう!」
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Vol12Interview2020.07.14「0→1の再現性を高め、スタートアップの“Hardware is hard“な状況を改善したい」
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Vol13Interview2020.08.20「ゴールを可視化・お客様の強みを活かし、チームでプロジェクトの成功を。 」
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Vol14Interview2020.09.03「プロジェクトを磨きに磨いて、ユーザーのもとで輝く価値を生み出す手助けをしたい」
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Vol15Interview2020.09.21「新しいモノを作り上げることの面白さに魅了される毎日」
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Vol16Interview2020.10.15「世の中の課題を解決するテクノロジー。それを生み出し届けるための事業を起こす支援をしたい」